●なかむら先生の「里山海通信」71

ニュータウン都市に残るキツネと浮世絵・広重の世界

「奇跡のはらっぱ、そうふけっぱらのキツネを守ろう!」これは先月、印西市などの後援のもと、地元の自然を守る市民がつくった「亀成川を愛する会」と日本自然保護協会が主催し、印西市の千葉ニュータウン中央駅近くで開催されたシンポジウムのタイトルである。

約40年前のニュータウン計画がバブル経済の終焉で凍結された地域にはきわめて貴重な自然が息づいていた。亀成川源流の台地上には不思議な湧水池が今に残され、その周辺では絶滅の危機に瀕した多くの動植物が生息、生育する貴重な湿地や草原、森林が広がる。

まさに江戸時代に歌川広重が画いた浮世絵の世界が今に残されていたのである。最近この草原でキツネの生息が確認された。キツネは大変センシティブな動物で、都市周辺の生息は皆無に等しい。めったに姿をみせない謎に満ちたキツネであるが、昔から人々にとっては神の化身や民話の主人公として登場する。

千葉県では各地に稲荷信仰が根付いているが、印西市では「そうふけっぱらのきつね」という民話が今に伝えられ、シンポジウム当日もその素話が披露された。道に迷った行商人を、犬や人に化身したキツネがやさしい農家に導き無事に一夜を過ごすという、ほのぼのとした物語である。

愛知県では「ごんぎつね」プロジェクトが展開されている。これは愛知県知多地方の言い伝えをもとにした新美南吉の児童文学作品「ごん狐」にちなんで、県や地域の行政のほか大学や企業、市民グループ等が一体となった生物多様性の保全・再生のプロジェクトである。キツネの再来を指標として、残された自然のポテンシャルを守り再生して、かつての豊かな自然を取り戻そうとしている。

ごん狐の物語は、主人公の小狐ごんの小さないたずらが、相手に大きな不幸をもたらし、そのことに気づいたごんが、その相手に一所懸命つくすようになる。しかし、ごんは悪い狐と勘違いされ、つくした相手に銃で撃たれてしまう。相手が小狐ごんの献身に気づいたのは命が絶える直前だったという悲しい物語である。

最近になって、千葉ニュータウンに残された奇跡の地で、突然に森林が伐採され、40年前の計画が再開され出した。ふるさとの自然と文化を守り活かした新たなまちづくり計画、子どもたちの未来のためにも急がなければならない。ここを悲しいごん狐物語の舞台にしてはいけないと思う。(千葉県立中央博物館・生物多様性センター 中村俊彦)

写真
千葉ニュータウンで発見されたキツネ(写真/亀成川を愛する会)

戻る