10 必死で声を出す



10 必死で声を出す

現役の学生・Wは2人の助手の他に、重要な役目を担っていた。声を出すトレーニングが彼の担当だ。

それにしても医学的とは言えない方法だ。応援団がやる、腹から絞り出し、のどを潰すやり方で「あああ、ううう」を練習させられる。ア行から順番に出していく、しかしどれも同じようで微妙に違う発声になっている。

これだけを30分以上だ。のどが痛い。しかし、Wは一切妥協しない。最後の決まり文句は「私が先輩から殴られますから、お願いします」これには勝てない。

彼ら3人は「先輩達から『アイツは殺すわけにはいかないから』『歩き回れるように回復させろ』と言われて来ているので我慢して下さい。お願いします」と言う。殺し文句だ。私の弱いところをしっかり抑えられてしまった。

一日目は何とかあえぎあえぎ予定を終了した。
これが地獄のリハビリの入り口だった。1週間も2週間もこの訓練だけを続けるとのことだ。危険を伴うので、自分一人ではやらないで下さいと強く止められた。

社員2人を病室に呼んで今後の打ち合わせをする。と言っても、本人達の考えている事を聴いてイエス・ノーの判断をするだけだ、取りあえず3カ月間は役所の入札は厳しいので無理な競争はしないこと、後は全部任せ、報告はメールでいいとした。

会社のノートパソコンを病室に持ってくるように頼む。入院中にパソコンを多少使えるようにしたいと考えたからだ。このまま言葉が不自由な場合を考えての事だ。インターネットでの検索や、ワードを使いメールでのコミュニケーション、左手だけでも出来るよう練習だ。

3人組が来ない日は病院の理学療法士が右手の指先に集中して開いたり握ったりの繰り返しのリハビリをしてくれた。

「東葛まいにち」2009年6月10日号掲載


                                                  

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