3 体が動かない
左手で右手の指をそーと触ってみる。冷たい。つめでつねってみる。鈍い。左手で右手を持ち上げてみる。離すと支えられない。
何とか体をひねって支えようとするが、ストーンと落ちる。腕全体をもんでみる、痺れているような感じが分かる。足は全く力が入らない、ひざを曲げようと何度も試みるが動いてくれない。
夜が明けるまでの時間、「もしかして動くかもしれない」と何度も何度も、挑戦し続けた。暗闇の中、焦点の合ってない視線で壁を見詰め、声の出ない、歩くことができない姿の自分を見ていた。これからどんな生活を強いられるのか。
明るくなるまで右手をマッサージし続けていた。
これから、どうすればいいのか、堂々巡りし、考えがまとまらない。
早朝、看護婦の検診があり、後ほど、院長が来て「今後の治療等の説明があります」と告げた。妻だけでなく、自宅で待機している子供たちも呼び寄せた。運良く自宅からそんなに遠くない病院に担ぎ込まれていた。
医者が看護師、リハビリ担当、薬剤師を連れて部屋にやってきた。昨日、救急車で搬送された私の処置をしてくれた医師で脳外科の院長だった。昨日は脳外科の救急患者が多く、偶然、院長が担当してくれたとのこと。
「病状はかなり重いので、元の生活に戻る事は厳しいと思います。その体に慣れて上手く付き合うように考えてください。リハビリも早く始めますが、何より自分で積極的に日常の生活の中で機能訓練を心掛けてください。あなたの知り合いの方を病室に入れてのリハビリも構いません」
私はこの医者が何を言いたいのか理解できずにいた。病院の決められた範囲のリハビリでは充分な回復を期待できないから、外部から連れてきても黙認すると言っているようにも受け取れた。
最初の試練がきた。トイレだ。尿意を感じ、尿瓶を用意するが、粗相してしまった。
おかしい、排尿している感覚がない。自分ではどうしようもない。あわてて、ナースコールをして看護師にきてもらった。院長もすぐ来てくれたが重苦しい空気の中、「排尿障害は回復が難しい」と告げた。「この状態だとチューブを挿入するしかありません」と言われ、即、挿入されてしまった。
これではベッドから離れることはできない。寝たきりの状態だ。
ベッドの中で寝たまま「おまる」でなんかできない。
「意地でも歩いてトイレまで行ってやる」
そう密かに腹を決めていた。
「東葛まいにち」2008年9月24日号掲載
2008年09月24日 コメント&トラックバック(0) | トラックバックURL |
カテゴリ: 今ここに在る命
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