No.15 体の異変
7月中旬(04年)に入って、散歩の途中息切れを感じることが何度かあった。少しペースが速過ぎたかとあまり気にもしないでいた。が、その日は起きた時から心臓が苦しく息苦しさを感じ、居ても立っても居られず救急車で病院へ運ばれた。
何年か前にも夜中に救急車で病院に担ぎ込まれたことがあった。その時は薬だけで落ち着き、すぐに帰宅を許された。詳しい説明はなく「血圧が高いので注意してください」と、確かその程度だったと記憶している。
検査の結果では心筋梗塞の兆候があり、心臓の弁から血液の逆流も確認された。さらに肺に水が3分の2以上の量溜まっていた。特に緊急は肺の水を除くことと原因究明だった。精密検査も兼ねての入院を告げられた。心臓の方は薬や治療などで抑え、肺の水は2~3日間利尿剤を投与して様子をみることになったが少なくならない。直接針をさして注射器で抜いてもすぐに溜まる。検査らしいことは1日に1回程度。
1週間目、院長の朝の定期巡回で「ご家族の方も一緒に、今後の治療方法など相談したいので、明日時間を作って欲しい」と告げられた。嫌な予感がしたので「今後のことすべてを考えなければならないから、家族と話をする前に私に先に話して欲しい」と頼んだ。
肺に水が溜まった原因として考えられるのは、大きく結核とがんの二つ。
恐れていた通りだった。肺にかなり大きい腫瘍らしい影が確認できた。「半年前は無かったのか、そんなに急激にできるものなのか」など、怒りや非難、恐怖の入り混じった言葉を矢継ぎ早にぶつけた。
『組織検査をして見なければ、悪性か良性か分かりません』
「組織検査をして悪性の場合だったら、どうするのか?」
『医師としては、通常は手術を考えます』
「何か問題がありますか」妙に冷静になっている私がいる。
『脳梗塞の原因も心臓です。血栓が出来やすい心房細動や弁のところから逆流もありますし、今回の心筋梗塞などの事もありますので、ご家族も含めてご相談をしたいと思いました』
「良性のこともあるはず、確率は50対50ですよね」
『悪性の場合は、放っておけば最悪年内という事もありえます』
「手術中の急変のリスクはないですか」と冷静に必死に「安全です、安心です」の言葉を引き出そうと食らいついた。だが、最後まで私を安心させてくれる言葉は院長の口から返って来なかった。
その夜は、さすがに眠れず、窓から街の灯りを眺めていた。真夜中だ。必死に考えようとするが、同じところで思考が止まり、また振り出しに戻る。朝まで何度も繰り返したが、遂にその先まで行き着くことはなかった。
しかし、なんとなく手術はしないと決めている。理由は分からない。確かに決めている自分に驚く。妙に冷静に死を受け容れている。否、良性だと信じ、確信しようともがいていたのかも知れない。
「東葛まいにち」2010年1月6日号掲載
2010年01月06日 コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |
カテゴリ: 今ここに在る命
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