No.170 黙る喜び



No.170 黙る喜び

私達は、自分の行動や思考を自分の意思により制御していると思っていますが、日常生活を改めて観察してみると、そのかなりの部分がなかば習性として行われていることに気づきます。

日ごろ通いなれた道を歩くことも、いつもと変わらぬ食事をすることも、気づいた時には終わっていたという体験は誰にもあるはずです。行動の多くは脳によって自動制御されており、純粋に意思による行動というのは意外と少ないもの。

そんなつもりじゃなかった、ついやってしまった、したくないと思っていたのに、など本来の意思と反する行動に当惑することがありますが、ほとんどが脳の判断、指令によるものだからです。

思春期病の解決法としてお伝えしている〝黙る〟について、多くの方が黙りたいと思っているのに、ついしゃべってしまう原因はここにあります。脳が関与する行為を意思のみで制御するのは難しいのです。

思春期外来に、なかなか黙れずに悩んでいた母親がいました。先日、その方がいつになく明るい表情で来院しました。

「ある日、子どものことでカチンときて、いつもでしたら二言三言しゃべるところを、(まあいいや)と黙っていましたら程なく気持ちはおさまりました。その時、(これが黙るってこと?)と急にうれしくなり、何度も思い返しては穏やかな気持ちにひたりました」

過去、親として子どもに口出しすることを正しいと思い込んでいた記憶を根拠に、脳は、習性としてのしゃべりを指令するのですが、黙ることに喜びを感じ始めると、脳はその根拠を失い不用意にしゃべりを指令しなくなります。

黙ろうと決意し、どんなに我慢し苦しんでもできなかった〝黙る〟が、黙ることを喜べるようになるだけで、可能になるのです。脳には、心地よいことを繰り返し、苦しいことを避けるように指令する特性があるからです。

また、この母親のように、黙れた喜びを何度も思い返すことはとても効果的で、脳は、思い返すごとに黙れた喜びを実体験したものと勘違いして記憶に焼きつけ、黙ることにより協力的になってゆきます。

次回は「したくなかった」

 「東葛まいにち」2012年1月4日号掲載


                                                  

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カテゴリ: 思春期ブルー

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